2019年08月09日
【経営者の皆さま向けお役立ち情報】事業承継税制の2018年度改正ポイント
LTRでは、本ブログを通して経営者の皆さまのお役に立てる情報を定期的に発信していきます。
今回は「事業承継税制の2018年度改正ポイント」を紹介します。
(1)対象株式数上限等の撤廃
旧来制度ではすべての株式について適用が受けられるわけではありませんでしたが、新たに導入された特例制度では100%の株式について適用を受けることが可能になりました。言い替えると、「事業承継時の贈与税・相続税の現金負担割合をゼロにすることもできるようになった」ということです。ただし、贈与税・相続税がゼロになるわけではありません。この制度は、あくまでも納税猶予の制度ですから、ご注意ください。
(2)雇用要件の実質的撤廃
旧来は事象承継後5年間の雇用平均が8割未達の場合、猶予された相続税・贈与税の額を全額納付しなければなりませんでした。しかし、特例制度では、5年間の雇用平均が8割未達でも猶予は継続されることになりました。
ただ、何もせずに納税猶予が継続されるわけではありません。認定した都道府県に、「なぜ5年間、要件が満たせなかったか」を報告することが必要です。その理由が経営悪化などの場合には、認定支援機関によって指導助言がなされます。とはいえ、理由の報告や認定支援機関の指導助言がありさえすれば納税猶予は継続されるわけですから、「実質的」には5年間の雇用維持の要件は撤廃されたということになります。
(3)対象者の拡充
旧来制度では一人の先代経営者から一人の後継者への相続・贈与のみが対象でしたが、特例制度では複数の株主から代表者である後継者(最大3人)への承継への適用が可能になりました。
1990(平成2)年の商法改正以前は、株式会社の設立には7人以上の発起人が必要でした。ですから、現在、事業承継を迎える多くの会社で株主が7人以上いるという状況が発生しています。そして、当初の7人から相続で20人程度に分散しているという事例も少なくありません。
(4)経営環境変化に応じた減免措置
旧来制度では納税猶予が取り消しになった場合、事業承継時点の株式評価額のまま相続税・贈与税の納税が必要でした。しかし、特例制度では事業承継時点の株式評価額と差額(損失)が発生している場合、納税猶予の取消事由(売却・廃業)が発生した時点での株式評価額をもとに納税額を再計算し、納税猶予した額よりも実際の納税額を圧縮できるようになりました。ただし、利用できる場面が非常に限定されていますから、過度の期待は禁物です。
(5)相続時精算課税制度の適用範囲拡大
特例制度では、相続時精算課税制度(※)が緩和された形で適用されるようになりました。本来、相続時精算課税制度は「60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫への贈与のみ対象」となっていますが、事業承継税制の適用を受ける場合に限り、「60歳以上の贈与者から20歳以上の後継者への贈与も対象に入れることができる」ようになりました。
たとえば、役員の退職金を支払った場合や、将来の相続に備えて一時的に効果のある株価対策がなされた場合など、株式の評価額が低い時点で贈与を行えば、それだけ多くの株式を後継者に移すことができます。このとき、相続時精算課税を適用できれば、贈与後に株価が上昇したとしても相続時の株式評価額は贈与時点のままとなるので、後継者にとっては税務メリットになるわけです。
※相続時精算課税制度
簡単にいうと、相続前に行った2,500万円までの贈与に伴う贈与税を贈与時点では支払わず、相続時に相続された財産に含めて計算した相続税のうち一部を支払ったことにする制度。