お役立ち情報
2022年05月27日 [お役立ち情報]
弁護士が分かりやすく解説「残業代対策としての完全歩合給について」(パート2)
こんにちは。弁護士の鈴木です。前回に続き、今回も時間外労働についての残業代をコントロールする手段の一つとなる「残業代請求権〜残業代対策としての完全歩合給〜」をテーマにお話しします。
▶前回の記事(パート1)もあわせてご覧ください。
「残業代対策としての完全歩合給について」(パート1)
【顧問先A】:前回、先生の方から「さらに発展した完全歩合給の制度設計」というお話があったのですが、続きを聞かせて頂けますでしょうか。
【弁護士(鈴木)】: はい。こちらはまだ私の構想段階で、実行した顧問先の実例はないのですが、ご紹介しますね。
まず、労働基準法が求める割増賃金については
「@固定給のとき、固定給÷所定労働時間×1.25×時間外労働時間」
「A歩合給のとき、歩合給÷総労働時間×0.25×時間外労働時間」
というお話をさせて頂きました。
※休日労働の場合は、1.25や0.25ではなく、1.35や0.35と置き換わるのですが、話をわかりやすくするために、いったん休日労働の場合を除いてお話しします。
次に、労働基準法が求める割増賃金以上の割増賃金を設定することは当然ながら問題がありません。そこで、上記の歩合給の割増賃金の算定式のうち、最後の「時間外労働時間」とある部分を「総労働時間」に置き換えます。
時間外労働時間よりも総労働時間の方が長いので、労働者に有利な設定となります。そうすると、上記の歩合給の算定式は、「歩合給×0.25」となります。
他方で、歩合給は通常「売上×会社所定のパーセンテージ」になります。仮に、御社で所定のパーセンテージを30%とするなら、「歩合給=売上×30%」、「割増賃金=歩合給×0.25=売上×7.5%」、総額で売上の37.5%となります。
であれば、最初から「歩合給=売上×24%」、「割増賃金=歩合給×0.25」、と設定しておくと、結局、割増賃金込みの歩合給として、合計で売上×30%という賃金体系になるのではないか、と考えられるのです。
【顧問先A】:なるほど! 売上×30%で、それに割増賃金も含まれていると。ただ、そんなに大幅な時間外労働をしても、割増賃金が全く発生しないような賃金体系が認められるのでしょうか。
【弁護士(鈴木)】:はい。この制度設計は、もともと歩合給についての労働基準法の定める割増賃金の最低ラインが「歩合給÷総労働時間×0.25×時間外労働時間」と定められており、それよりも高い割増賃金を支給しているので、労働基準法に違反するものではないという考え方に立脚しています。
また、休日労働の場合には0.35、2023年4月以降には時間外労働時間が60時間を超える場合には0.5、の割増賃金が発生するので、これらの時間が大幅に増えてくると、差額分については割増賃金を支払わなければならないことになります。
そこで、「歩合給÷総労働時間×(休日労働時間×0.35+深夜労働時間及び月60時間までの時間外労働時間×0.25+月60時間を超える時間外労働時間×0.5)を超えた額が、当社所定の割増賃金に満たないときは、その差額を追加で支払う」と表記し、「いくら休日・深夜・時間外労働時間を重ねても、割増賃金が支払われないことはないこと」を明記しておく必要もあるでしょう。
実際、2023年4月以降に60時間を超える時間外労働が大幅に発生したときは、この追加支給が発生する事態はありうるでしょう。
【顧問先A】: ありがとうございます。そうすると、結局、労働者の労働時間、とりわけ休日・深夜・時間外労働時間がどのくらい生じているか、については経営者として把握しておかなければなりませんね。
【弁護士(鈴木)】:そうですね。前回もお話ししましたが、最低賃金との関係でも労働時間の管理は必須です。完全歩合制といっても、請負の場合とはそこが異なります。
また、労働安全衛生法第66条の8の3でも「事業者は、・・・厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。」とされ、ここでいう厚生労働省令にあたる同法施行規則57条の7の3でも「タイムカード」「パーソナルコンピュータ等の電子計算機」などを用いた客観的な方法による記録を求めています。
【顧問先A】: ありがとうございました。弊社は運送業なので、遠方まで荷物を運び一泊して戻ってくるような業務の場合、遠方での労働時間の管理は難しいですね。
【弁護士(鈴木)】:外回りが多い営業職や、直行直帰型の職務の場合でも同じような問題が生じます。一応、通達では上記の客観的な方法による記録ではなく労働者の自己申告で良い場合も例示されているのですが、「事業場外から社内システムにアクセスすることが可能」なときは労働者の自己申告で労働時間を把握することは認められないとされています。最近は、スマホで労働時間を管理することもできるアプリもあるようですから、自己申告のみで管理するというのは、なかなか難しいかも知れませんね。
改めまして、今回は「残業代対策としての完全歩合給」について、お伝えしました。パート1では、残業代対策としてなぜ完全歩合給が有効なのかをお示しし、パート2では、その考え方を発展させた私の試案をお示しいたしました。
私の試案については、労働基準法が求めている歩合給に対する割増賃金の考え方との違い、労働時間の長短が賃金の割増に反映されずに売上が反映される構造になっていること、などを労働者の方へ良く説明し、納得の上で採用して頂きたいと思います。
(弁護士 鈴木 洋平)
※本記事は2022 年5月27日時点での情報をもとに作成しております。
▶前回の記事(パート1)もあわせてご覧ください。
「残業代対策としての完全歩合給について」(パート1)
「完全歩合給の制度設計」について見ていこう!
【顧問先A】:前回、先生の方から「さらに発展した完全歩合給の制度設計」というお話があったのですが、続きを聞かせて頂けますでしょうか。
【弁護士(鈴木)】: はい。こちらはまだ私の構想段階で、実行した顧問先の実例はないのですが、ご紹介しますね。
まず、労働基準法が求める割増賃金については
「@固定給のとき、固定給÷所定労働時間×1.25×時間外労働時間」
「A歩合給のとき、歩合給÷総労働時間×0.25×時間外労働時間」
というお話をさせて頂きました。
※休日労働の場合は、1.25や0.25ではなく、1.35や0.35と置き換わるのですが、話をわかりやすくするために、いったん休日労働の場合を除いてお話しします。
次に、労働基準法が求める割増賃金以上の割増賃金を設定することは当然ながら問題がありません。そこで、上記の歩合給の割増賃金の算定式のうち、最後の「時間外労働時間」とある部分を「総労働時間」に置き換えます。
時間外労働時間よりも総労働時間の方が長いので、労働者に有利な設定となります。そうすると、上記の歩合給の算定式は、「歩合給×0.25」となります。
他方で、歩合給は通常「売上×会社所定のパーセンテージ」になります。仮に、御社で所定のパーセンテージを30%とするなら、「歩合給=売上×30%」、「割増賃金=歩合給×0.25=売上×7.5%」、総額で売上の37.5%となります。
であれば、最初から「歩合給=売上×24%」、「割増賃金=歩合給×0.25」、と設定しておくと、結局、割増賃金込みの歩合給として、合計で売上×30%という賃金体系になるのではないか、と考えられるのです。
完全歩合給の制度設計」のポイントは?
【顧問先A】:なるほど! 売上×30%で、それに割増賃金も含まれていると。ただ、そんなに大幅な時間外労働をしても、割増賃金が全く発生しないような賃金体系が認められるのでしょうか。
【弁護士(鈴木)】:はい。この制度設計は、もともと歩合給についての労働基準法の定める割増賃金の最低ラインが「歩合給÷総労働時間×0.25×時間外労働時間」と定められており、それよりも高い割増賃金を支給しているので、労働基準法に違反するものではないという考え方に立脚しています。
また、休日労働の場合には0.35、2023年4月以降には時間外労働時間が60時間を超える場合には0.5、の割増賃金が発生するので、これらの時間が大幅に増えてくると、差額分については割増賃金を支払わなければならないことになります。
そこで、「歩合給÷総労働時間×(休日労働時間×0.35+深夜労働時間及び月60時間までの時間外労働時間×0.25+月60時間を超える時間外労働時間×0.5)を超えた額が、当社所定の割増賃金に満たないときは、その差額を追加で支払う」と表記し、「いくら休日・深夜・時間外労働時間を重ねても、割増賃金が支払われないことはないこと」を明記しておく必要もあるでしょう。
実際、2023年4月以降に60時間を超える時間外労働が大幅に発生したときは、この追加支給が発生する事態はありうるでしょう。
最低賃金との関係からも<労働時間の管理>は必須
【顧問先A】: ありがとうございます。そうすると、結局、労働者の労働時間、とりわけ休日・深夜・時間外労働時間がどのくらい生じているか、については経営者として把握しておかなければなりませんね。
【弁護士(鈴木)】:そうですね。前回もお話ししましたが、最低賃金との関係でも労働時間の管理は必須です。完全歩合制といっても、請負の場合とはそこが異なります。
また、労働安全衛生法第66条の8の3でも「事業者は、・・・厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない。」とされ、ここでいう厚生労働省令にあたる同法施行規則57条の7の3でも「タイムカード」「パーソナルコンピュータ等の電子計算機」などを用いた客観的な方法による記録を求めています。
【顧問先A】: ありがとうございました。弊社は運送業なので、遠方まで荷物を運び一泊して戻ってくるような業務の場合、遠方での労働時間の管理は難しいですね。
【弁護士(鈴木)】:外回りが多い営業職や、直行直帰型の職務の場合でも同じような問題が生じます。一応、通達では上記の客観的な方法による記録ではなく労働者の自己申告で良い場合も例示されているのですが、「事業場外から社内システムにアクセスすることが可能」なときは労働者の自己申告で労働時間を把握することは認められないとされています。最近は、スマホで労働時間を管理することもできるアプリもあるようですから、自己申告のみで管理するというのは、なかなか難しいかも知れませんね。
改めまして、今回は「残業代対策としての完全歩合給」について、お伝えしました。パート1では、残業代対策としてなぜ完全歩合給が有効なのかをお示しし、パート2では、その考え方を発展させた私の試案をお示しいたしました。
私の試案については、労働基準法が求めている歩合給に対する割増賃金の考え方との違い、労働時間の長短が賃金の割増に反映されずに売上が反映される構造になっていること、などを労働者の方へ良く説明し、納得の上で採用して頂きたいと思います。
(弁護士 鈴木 洋平)
※本記事は2022 年5月27日時点での情報をもとに作成しております。